スイス探訪⑤ BERN~INTERLAKEN~BRIENZ

5/9(木)~5/16(木)

⑤5/13(月) ベルン~インターラーケン~ブリエンツ

国土交通省のサイトを参照すると、「首都は、その国の顔として、その国の歴史や文化、理念や価値観、将来へのビジョン等を自らの国民及び世界に語りかけるものとして創られるべきである。」とある。首都がそういった概念の下に存在しているのならば、1週間もひとつの国に留まっているのにも関わらず首都を訪問しないというのは非常に失礼であるといえよう。

そういえば、いつだったかヨーロッパ旅行に行ったことのある先輩と後輩を車に乗せて山に行ったとき、僕を挟んでベルンを絶賛する会話をしていたことを思い出した。万年金欠貧乏旅行者の僕は「なんだこの成金共は…」と思いながらも一応会話に耳を傾けていたわけなのだが、おかげでベルンという街を訪れることについてそれなりの期待感を抱いていた。

この日もいつもと同じ時間に目が覚めてしまった。悲しき社会人の性である。朝食を食べて駅へ向かう。相変わらず今日も天気が良い。

ヴィンタートゥールの駅でcoopに入ると、溢れんばかりの花束が売られているスペースがあり、そういえば昨日が母の日であったことを思い出した。ちなみに、スイスのポッキーは「MIKADO」という品名で売られている。欧州では「ポッキー」という発音はアレの隠語だからだ。

チューリッヒで乗り換え、ここからベルンまでは1時間程度だ。列車がアーレ川を渡るあたりで石造りの街を遠望できるようになる。

ベルンの駅で下車し、外に出ると石造りの街並みだ。駅前の印象で受けた印象はチューリッヒで受けた印象と特に変わらない。クリーム色の石造りの建物がお行儀よく並んでいる。

ベルンの見どころはやはり街並み全体が世界遺産に指定されている旧市街であろう。ヨーロッパの街並みはその多くが戦火により16世紀以降に建て直されている。15世紀の街並みが残るベルンのアーケードはヨーロッパにおいて最古の街並みのひとつだ。中世ヨーロッパの美しい街並みを今に伝える貴重な都市である。「ヨーロッパで最も美しい緑と花の町」らしい。

さて、駅から東方面に向かい、路面電車のターミナルに出るとベルンの旧市街の入口だ。左手に立派な教会がお出迎えしてくれる。

スイスの国旗やベルンの州旗がはためく通りを鼻歌を歌いながら歩いていく。ベルンの州旗にはヒグマが描かれている。12世紀にベルンの街を建設したツェーリンゲン家の家長が最初に仕留めた動物が熊だったといわれており、それ以来、熊がベルンのシンボルとされている、とのことだ。ちなみに、「ベルン」とはドイツ語で「熊」のことだ。

鼻歌交じりのお散歩を楽しんでいると、門番のような立派な塔が道を塞ぐように建てられていた。Käfigturm、日本語に直すと「牢獄塔」らしい。ベルンの街が13世紀に拡張された際に、新たな西門として造られた塔で、現在の建物は17世紀半ばに再建されたものらしい。名前のニュアンスとその出で立ちを見るに、RPGの世界なら怪しい魔術師や火を吐くドラゴンのひとつやふたつ出てきそうな感じだが、周りを見渡すと忙しなく動くベルンの日常があるのみで、特に奇想天外なことが起きそうな雰囲気はない。

牢獄塔から進むとこの街のシンボルであるZytgloggeだ。要するに時計塔だ。ちょうどここが旧市街の中間地点であろう。シンボルとあって道行く観光客が皆見上げて写真を撮っている。基礎部分は1405年(その他は1530年再建)建築のもので、ベルン最古の建築物である。東側には、太陽の動きと月の満ち欠けを正確に伝える天文時計がある。からくり時計であるため、毎時正時になるとからくりが動き出して時間を教えてくれるのだが、「地球の歩き方」を読むと、正午の仕掛けが1番長くて良い、との事だったので、正午に合わせて戻ってくるようにのんびり先に進むことにした。

流れに身を任せて旧市街のアーケードを進む。確かにこれは良い。あのとき車の中でブルジョワ2人が絶賛していた理由もわかる。

国の誇りを感じる。首都が「その国の顔として、その国の歴史や文化、理念や価値観、将来へのビジョン等を自らの国民及び世界に語りかけるもの」であるならば、豊かな緑に囲まれた秩序ある街並みが、市民の朗らかな喧騒が、青空の下に掲げられたスイスの国旗とベルン州旗のトンネルが、私たちがこの国に生きることがこんなにも誇りあるものなのだと、僕たちに語りかけてくれている。

そんな石畳の街角をゆらゆらとさまよう。我々は誇りある空間に迷い込んだ異邦人にすぎない。

歩みを進めるうちにふと右手に目を向けると「Einsteinhaus」の文字が目に映った。アルベルト・アインシュタインが1900年代に借りていたアパートで、アインシュタイン一家が使っていた家具が当時の状態のまま再現されているそうだ。

雑貨店を覗いたりしながらふらふらと歩いて行くとアーレ川にかかる橋に出た。アーレ川の流れと赤茶色の屋根の街並みが非常に美しい。僕が今まで想像していた「ヨーロッパの街並み」はこれだろう。こんな風景を見るとスケッチでもしたくなる。しかし、あいにく、スケッチブックなど持っていない。

目の前の丘陵地帯には美しいバラ園があるようだ。

橋から川を見下ろすと、河川敷の緑の中に何か動物がいる。そう、ベルンのシンボルであるヒグマがここで飼育されているのである。僕の隣で子どもたちが熊に手を振っていたが、熊はガン無視でのそのそとくつろいでいるようだ。お前、一応シンボルだろう…。

ここから再びベルンの駅の方向に戻ることにした。からくり時計の仕掛けを見たかったからだ。

少しメインアーケードから外れた通りに入って、ベルン大聖堂を目指す。メインアーケードとは異なり人通りはまばらで、少々静かだ。石造りの建物の外壁にも宗教画が塗装されていたりして、全く飽きることはない。むしろ、こういう所のほうが面白い。

やがて立派な尖塔が前方に見えるようになる。ベルン大聖堂だ。近づくと、とにかく大きく壮麗だ。どっしりと構え、塔の部分は空に突き刺すような鋭さだ。

1421年に建設が開始され、宗教改革などを経て、完成したのは1893年、実に470年をかけて建てられたとのことだ。

せっかくなので、中に入ってみることにした。三面窓を彩るステンドグラスの煌めきが非常に美しい。

天に召されそうな神々しさからなのか、何となくフランダースの犬のラストを思い出した。ちなみに、フランダースの犬の舞台はベルギーである。

路地裏のトンネルを抜けて、メインのアーケードに戻ってきた。時計を見ると11:45、再び時計塔へ向かう。

考えることは皆同じなのか、時計塔に着くと多くの人が仕掛けを見るべく待機していた。正午の4分前になると、ニワトリが鳴き、小熊の仕掛けが登場して行進を始めた。そして正午になると、塔の上の「鐘撞き男」の仕掛けが鐘を鳴らしてくれた。想像よりかわいらしい仕掛けであった。

ベルンの駅に戻る前に、スイスの連邦議事堂に立ち寄る。「地球の歩き方」によれば、スイスの大統領が一般人に混じってショッピングしてるかも、とか書いてあったが、そう簡単に見られるものでも無い。

旧市街をぐるりと周り、駅に戻ってきた。coopに寄って昼食用のパンを買う。焼きたてだった。

ここから南に向かう列車に乗る。列車は、先日訪れたトゥーンと、シュピーツを経由して、ヨーロッパ有数のリゾート地であるインターラーケンへ向かう。

インターラーケンは「Interlaken」の名の通り、トゥーン湖とブリエンツ湖に挟まれた場所にある。

ここから登山鉄道に乗り換えることができ、グリンデルワルトに代表されるユングフラウ地方の秀麗な山村へ向かう出発点となっている。グリンデルワルトといえば、かの有名なアイガーの麓の村だ。

さて、我々も登山鉄道に乗りたいところだが、そんなことをしていると今日中にヴィンタートゥールに戻れなくなってしまう。あいにく、空も曇りだしたので、とりあえず我々が下車したInterlaken ost駅から、Interlaken west駅を往復することとしよう。

東西の駅を結ぶ通りには高級時計店などが立ち並ぶ。ウィンドウショッピングとはこのことを言うのだろう。時計を見ながらヨダレと冷や汗が出た。世界有数のリゾート地とあって、立ち並ぶホテルも品が良さそうだ。僕は田舎の温泉旅館で充分なので、とりあえず同じ空気だけでも吸っておこう。

Interlaken ost駅に戻ると大粒の雨が降り出した。スイスに来て初めての雨だ。駅構内のベンチでやり過ごす。数十分で雨は止んで、再び青空が広がった。

せっかく来たのに何にもしないのはどうかと思ったので、ブリエンツ湖を横断する船に乗って対岸の街、ブリエンツへ向かうことにする。我々は船体後方のベンチに座った。船尾にはためくスイスの十字架が青空によく映えていたからだ。

汽笛が鳴り、2時間弱の滞在だったインターラーケンを少しずつ離れていく。たった2時間だというのに、徐々に離れゆく岸辺を見ながら一抹の寂しさを覚えるのは、船の速度が醸し出す独特の雰囲気のおかげだろう。

この船に乗ったのは本当に正解だった。とにかくスイスの地形の大きさを存分に感じられる。湖の向こうに浮かぶ街並み、その上に広がる牧草地、そのさらに上に截然たる岩壁が覆い、山々の頂が天を突き刺している。

まるで田子倉湖の辺りから見る鬼が面山のようだ…とか思ったが、こういう例え方はなんとなく違うのでやめておこう。

1時間と少しの時間は景色を眺めていたら一瞬で過ぎ去ってしまった。ブリエンツに到着だ。

地図を見ると、ブリエンツの街は1時間半程度で1周できそうだ。次の列車まで少し時間があったので、ここでも散歩することとする。

夕刻の小さな街は首都の喧騒からは程遠い。雨上がりの湖畔の街は少し肌寒くて寂しげだ。

Googleマップで「Brunngasse Brienz」と表示される場所が気になったので、行ってみるとそれはそれは素晴らしかった。月並みな表現だが、まるで絵本から飛び出してきたかのような場所だ。カーブした石畳の路地にチョコレートの家のような木造のシャレーが立ち並ぶ。軒先に飾られたお花がカラフルな印象を与えてくれる。屋根の向こうの峻険な岩壁は、この通りのかわいらしさをさらに際立たせる重要なアクセントだ。

民家の軒先に置かれたお花や小物を見たりしながら、ブリエンツの駅前に戻ってくるともうすぐ列車が来そうという頃合いだった。

やはり知らない街をフラフラと歩くのは楽しい。予定になかったのなら尚更だ。トゥーンも非常に良かったが、ブリエンツの絵本のような街並みも、きっといつか夢に出てきそうな気がした。

ブリエンツ駅から列車に乗ってヴィンタートゥールに帰ることとする。ブリエンツからルツェルンまでは湖が点在する美しい車窓が続く。それもあってか列車の窓が大きく景色が見やすい。

ルツェルンでは一瞬だけ駅の外に出て、駅前の空気に増えた。「Welcome」の文字があるモニュメントに歓迎されたが、一瞬で去る。「訪れた街」にカウントするほど狡くはない。

明日の行先を考えながら、列車に揺られ時間は過ぎる。チューリッヒで乗り換え、そして寝静まったヴィンタートゥールに着いた。スイス国内をぐるりと大移動した1日だった。

丘の途中のシェアハウスに戻り、キンキンのコーラを飲み干して、眠りに就いた。明日はもう最終日、楽しい時間ほど終わるのが早いものである。

つづく


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